劇場と女性客

 私にとっては、ストリップに惹かれることと自分が女性であることとは、切り離しては考えられない。でもそれがどうしてなのか、ぼんやりと考えてはいても、はっきりと言葉にすることができない。だから少し外側から書きたい。劇場における女性客について、また女性客として私自身が感じることについて。

 最近ストリップにハマっていると周りの人に言うと、だいたいは驚かれる。そして、女性のお客さんって他にいるの?ときかれる。

 国内で最大のストリップ劇場は浅草ロック座。もちろんお客さんの圧倒的多数は男性だが、浅草では、女性客が自分ひとりだったことはほとんど、おそらく一度もないと思う。女性同士で来ている人もいれば、男女で来ている人も、女性ひとりで来ている人もいる。浅草は初めてでも入りやすく(それでも勇気はいるだろうけど)、舞台も広く、演目もひとつづきで構成されたショーの要素が強い。一回の区切りも短くわかりやすいフィナーレもあるため、男女問わずストリップを一度観てみたいという人にはいつも浅草ロック座をおすすめしている。

 浅草ロック座に対して、ポラ館と呼ばれる*1小さな劇場がある。関東では浅草と同じロック座の系列で新宿ニューアート、川崎ロック座、横浜ロック座。その他の系列で新宿、渋谷、池袋などに劇場がある(私はまだロック座系列以外に行ったことがない)*2劇場によって雰囲気はちがうものの、浅草と比べれば、ポラ館で演じられるのは踊り子さんごとの「演し物」といった雰囲気が強い。またポラ館の名の通り、お客さんが踊り子さんのポラロイド写真を撮る時間がある。

 浅草へは何度か行ったことがあった私が初めて小さな劇場へ行ったのは、横浜ロック座へと改名する前のストリップ浜劇だった。
 入り口のスタッフさんに初めてかどうかきかれ、初めてと答えると、劇場内での注意事項やお手洗いの場所などていねいに説明してくれた。浅草に比べると、ロック座系列では一番小さい劇場である横浜は「ストリップ小屋」と呼ぶのがふさわしいような狭い場内。客席全員の顔が見えるほどの場内ひとりきりの女性客として、緊張している私に、常連さんらしき人が席を譲ってくれた。帰りには入り口で説明してくれたスタッフさんが、楽しかったですかときいてくれた。この日の穏やかなホスピタリティのおかげでもう一度行きたいと思ったし、劇場という場所への信頼感をもつことができた。

 ストリップが楽しいのは、第一にはもちろん踊り子さんたちのショーがすばらしいからだ。でも通いたくなるのは他にもいろいろな条件が整っているからだと思う。アクセス、入場料、予約が必要ないところ……そのなかでも劇場の雰囲気はやはり大きい。ひとりでもストリップ劇場に行くと(行ったことのない人に)言うと、怖くないのとよくきかれる。そんなことはない。劇場の中はいつも温かく、踊り子さんたちへの敬意に満ちている。

 女性客がいること、そして増えていることを、踊り子さんたちや劇場は素直に喜んでくれているように見える。でもほかのお客さんはどうだろう。よくも悪くも気を遣ってもらっているのだろうとはつねに感じるし、もしかしたら、客席に私がいることで気まずい思いをしている人もいるかもしれない。ときどきは異物を見るような視線を向けられるし、ごくまれにあまりうれしくない言葉をかけられるときもある(それにしたって電車や街でより多いとは思えないが)。
 率直にいえば、いまのところ、周りのお客さんの気遣いを本当にありがたく思いながら、お客さん同士の交流をうらやましく眺め、しかしやや警戒もして、そこに自分が入れるとは思えずにいる。特別扱いなどされなくていいから、女性客が劇場にいることが当たり前になり、男性も女性もなくステージや踊り子さんたちについて話せるようになるといい。そんな日もきっと、近いうちにくるだろう。

*1:2020年11月追記。ポラ館という言葉を好まない人もいる。私もいまは使わない。

*2:2020年11月追記。関東の劇場には全部行った。また、新宿にあった3館のうち2館は閉館した。