発見が私を変えていく―菜央こりん『女の子のためのストリップ劇場入門』

 『イブニング』で連載されていた菜央こりんさんの連載が単行本になった。

女の子のためのストリップ劇場入門 (イブニングKC)

女の子のためのストリップ劇場入門 (イブニングKC)

 

  連載も細切れには読んでいたが、単行本としてまとめて読むと、これはストリップの世界を知ることで変化していく私の物語だと思った。

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 ストリップ劇場の客は「スト客」と呼ばれる。
 このエッセイコミックは、「ごくごく平凡な会社員」がスト客になっていく物語である。

 作者がストリップ劇場に初めて行ったのは友人から話を聞いて、そして好奇心からだったようだ。
 初めの数話は、劇場に行く前の「女の人の身体が見れる場所」への妄想やぼったくられるのではないかという偏見に始まり、舞台上の踊り子が脱ぐことへの期待と脱いだときの感慨、写真撮影タイムなどこんなシステムが!?という驚きが描かれる。
 (私も最初に劇場に行ったのはやはり好奇心からだったし、通ううちすっかり日常になった出来事も、たしかに最初はひとつひとつが衝撃だった。)

 話が進むにつれ作者はさらにストリップ劇場に通い、さまざまな劇場にいるさまざまな人に出会って、ひとつずつ驚き、発見していく。
 たとえばストリップ劇場に女性だけで入場しても変な目では見られないこと。劇場によって身体の見え方が違うこと。踊り子はもちろん劇場スタッフや演出など多くの人の熱意がストリップの舞台を支えていること。

 発見のなかには、作者自身のこれまでの考えを変えてしまうようなものもある。

 裸になることが恥ずかしいこと/エロいことは恥ずかしいこと/そんな概念が吹き飛ぶ

 「入門」とタイトルにあるとおり、各エピソードは劇場へ行ったことがない人にも伝わるよう配慮されていて、(スト客同士の会話ではよくある)特定の踊り子や演目についての細かい話題はない。
 それでもこの作品がストリップに魅了された人にしか描けないものと感じられるのは、スト客であればきっと見たことのある、劇場での美しい瞬間がたくさん散りばめられているからだ。
 特有の衣装やポーズ、横からだけでなく下からも上からも見える踊り子の身体と表情、ステージを彩る照明やリボン、穏やかで楽しそうなお客さんたちの姿、そして「推し」との出会い。漫画だからこそできる表現で、現在の、生きたストリップに光を当てている。

 長年ストリップを撮影してきた写真家の谷口雅彦さんとの会話がとくに印象的だった(吹き出しの背景になっている絵もぜひ見てください)。

「こんなに/人の身体をジッと眺めて/いろいろなことに想いを馳せることってないな と思います」
接触するでもなく/女の”からだ”と/対峙するところって/他にないと思うよ」

  ストリップを好きな人とストリップについて語るとき、好きな理由はそれぞれ違っていても、いつもこの「大切な場所」「他にない場所」という気持ちを共有できる気がする。