無題の百合

6, 7年くらい前にかいてた百合らくがき(まんが)供養。

家庭教師と女子中学生の話

 「じゃあそれが終わったら休憩にしようか」
 「うん」
 このおうちではいつもお母さんがおやつと紅茶を出してくれます。ショートケーキだったり、ロールケーキだったり、プリンだったりどら焼きだったり。この子には決まってする話があるのです、野球部のナントカ先輩のこと。代わり映えしない話を毎週よくもまあ目を輝かせ話せるものです。
 「**ちゃんには彼氏いる?」
 「うん、まあ」
 なんとなく、ずるずるともう半年、あれを彼氏と呼べるのならば。
 「どっちから告白したの?」
 「どっちから……向こうだったかなあ」
 「そっか! 私も絶対先輩に告白されたい!」
 がんばらなきゃとそんなに意気込まなくても、この数ヶ月、目に見えてかわいくなっています。あなたは気づいてないかもしれないけれど。
 「中学のときはどうだったの? 彼氏いた?」
 「えー、私はそういうの、なんにもなかったよ」
 「うそ!」
 「うそじゃないって」
 そんなところでうそをついてなんになるというのでしょう。なにかになるなら、いくらでもうそつきになりますが。ケーキを食べ終わって、宿題を出します。階段を降り、お母さんにも挨拶します。また来週。

高校3年生の山崎さんと里見さんの話

 小さいころからとっつきにくい子どもだったらしい。むかし母親に、妹はかわいげがあるのにあなたはねえと言われたことがある。それでもいい、わたしは誰にも頼らない。今日の進路指導もこの調子でとしか言いようがないなと言われて一瞬で終わった。その帰り道、駅までいっしょに行こうと里見さんに話しかけられた。
 「先生、なんだって?」
 「この調子で、って」
 「いいなあ山崎さんは、しっかりしてるし、勉強できるし」
 「ほかに楽しいことがないから勉強してるだけよ」
 ふたりしてゆっくり歩いている、駅までの時間を引きのばすように。
 「あたしもけっこうやってるのになあ」
 ひとりごとのように里見さんは言った。知っている。きれいな字で書かれたノート。
 「先週返ってきた模試ぜんぜんだめで」
 大丈夫よあなたかわいいから。きっと男に頼るなりなんなり、勉強なんかしなくても十分やっていけるでしょう、と言いたくなるのをこらえて。
 「そうなんだ。でも模試はあくまで模試だからね。本番じゃなくてよかったと思えば?」
 われながら間抜けなアドバイス、でもこういうの、わたしの意見を聞きたいわけじゃないからね。話したいだけ、背中を押してほしいだけ。
 「もう駅だね。山崎さんに話してホントによかった、ありがとう」
 「そんな、わたしでよかったらいつでも」
 「ありがとう、山崎さん大好き!」
 大好きってそんな簡単に。
 

 ほかに、仕事押しつけられがちな気の弱いメガネ女子が彼氏と電話して泣いている派手な女子を見て化粧がどろどろなのに興奮しながらハンカチを渡す話、平凡なセミロング女子がツリ目ふわふわショートの猫っぽい女子となぜか仲よくなる話、ゆるふわパーマをかけた女子がポニテの女子とかわいいかわいい言いあう話、クリスマス直前に彼氏に振られた女子に元気出してのメッセージつきケーキをあげる女子の話、などがありました。合掌。