タダで髪を切ってくれた人が「歴11年 店長」に

もう4か月髪を切っていない。

10年以上前、はじめて上京したときは下北沢に住んでいた。下北沢駅前や渋谷駅井の頭線の改札でよく美容師さんに声をかけられ、かけられるままにカットモデルをしていた。

基本的にカットは無料、カラーやパーマも1000円くらいでできたし、閉店後や開店前の美容室の様子を見られるのも面白かった。髪型ははじめから決まっていることも、ある程度スタイルを変えることが条件のことも、自由のこともあった。カットが終わり、チェックをする役の先輩美容師が私の髪を一通り触ったあと、「初めてうまくできたね!」と担当に言うという恐怖体験などもあった。

モデルは単発のことが多かったが、ある日声をかけてくれた美容師さんのモデルは3年くらい続けた。自分では選ばないような、いわゆるイケメンに囲まれて髪を切りたい人向けのような美容室で、正規の料金は高めだった。その人がスタイリストとしてデビューするときには、月の売上のノルマがあるというので、学生の身で2万円かけてカットとカラーとトリートメントをした。まだ足りないというので月末にトリートメントだけしにもう一度行った。何年もタダで切ってもらっていたことを思えば安いものだが、ホストクラブとはこういう感じなのかと思った。担当と呼ぶのも同じだし。

恩もあり慣れているから気楽で技術もある(切ってもらった数日後、知らない人に百貨店のトイレで髪型を褒められたことがある)がいかんせん料金が高いので、その後は2回に1回その美容室に行くことにしていた。行くといつもトリートメントをこっそりサービスしてくれた。

少し遠くへ引っ越したのを機にその美容室へは行かなくなり、ホットペッパーで適当に探した美容室を初回クーポンで渡り歩いていた。再度引っ越しをして今ならまた通えるかとその店舗のページを見てみたが彼の名前はなかった。辞めてしまったのかもしれないと思って別の美容室へ行った。

そして4か月、いつ髪を切ろうかと考えてばかりの数週間を過ごし、今日ようやく思いついてその美容師さんの名前で検索した。2年前に独立していて、なんと私の住んでいる駅の一つ隣にお店を構えていることがわかった。4年ぶりにメッセージを送り、来週の土曜日に予約をした。