イルミナ創刊号編集後記①―『女の子のためのためのストリップ劇場入門』とノーナレ「裸に泣く」

 今月頭に『イルミナ』という同人誌の創刊号を出しました。「ストリップと社会と私を考えるZINE」を名乗っています。

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 ここでは各記事を読んだ個人的で素朴な感想を記していきます。

 目次

 

  祝刊行! 菜央こりん『女の子のためのストリップ劇場入門』

 創刊号の巻頭特集(?)は菜央こりんさんの『女の子のためのストリップ劇場入門』の刊行を勝手にお祝いする企画。清水くるみさんと宇佐美なつさんから寄稿をいただきました。最初は書評のような感じでとお願いしていましたがお二人から届いたのはご自身の経験をふまえたエッセイで、むしろこれでよかった!といまは思います。菜央こりんさんの作品とともに、ご自身の劇場での経験を思い出しながら、またイルミナ創刊号全体に響くものとして、読んでいただけたらうれしいです。

清水くるみ「ピンクの照明が照らす未来」

 「坊主ストリッパー」の清水くるみさんはストリップ劇場への出演経験をもち、現在はイベントでのパフォーマンスを中心に活動されています。今回の寄稿に書かれているのは、清水さんが熱海の劇場に出演されていたときに菜央こりんさんの作品と出会ったことです。
 私は熱海へは最近行ったばかりですが、そこで一番強く思ったのは、この劇場で演者は本当に一人だなということ。新人でもかなりの時間一人で舞台に立つ芸能は他にそうそうないこともあり、ストリップを見て「一人だ」と感じることはしばしばあるのですが、熱海ではとくにそれを強く感じました。
 この清水さんの文章を読み、あの場所でお客さんを楽しませストリップを少しでも知ってもらうべく闘っていらっしゃったのだと、胸が熱くなりました。この文章は、自ら発信もしつづける表現者である清水さんから菜央こりんさんに向けた、温かいエールだと思います。

宇佐美なつ「視線の中で生きる私たち」

 宇佐美なつさんは、お客さん出身で昨年踊り子デビューされた現役の踊り子さんです。あくまで私の個人的な感想ですが、宇佐美さんのこの文章は、なぜ『女の子のためのストリップ劇場入門』が描かれる必要があったのかを、作者の菜央こりんさん自身の動機とは別に説明するものだと思います。
 この文章に書かれている「”見る”という暴力」に私も日常生活で多々覚えがあり、だからこそストリップ劇場という場で、そこがまさに女性の裸を見るための場であるにもかかわらず、”見る”ことが違ったかたちでありうることに、毎回新鮮に感動します。踊り子さんになったあとでも(お客さん時代の想像を超えて大変なこと、きっとあると思いますが)宇佐美さんのなかでそれが揺らいでいないことに、客でいつづけている自分も救われます。一方で、劇場にある雰囲気は最初からあるものではなく、不断に作られつづけているものだと、背筋が伸びるような気持ちにもなりました。

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 『女の子のためのストリップ劇場入門』の発売当初、菜央こりんさんのTwitterに掲載された試し読みが炎上したことがありました。今回本作品を取り上げ、お二人に寄稿をお願いした際にはそのことも念頭にありました。

 炎上のなかでは無理解や偏見に基づく言葉も多く見受けられましたが、ひとつ気にしたい言葉として、「ストリップは女性搾取である」というものがありました。
 この言葉について、「ある/ない」どちらと言い切れるようなものではないと私は思います。私たち一人一人の心持ちでどうにかなるものではなく、この社会にある、たとえば根深い女性差別、性表現や性風俗業そして芸能をめぐる問題、ストリップという文化が歩んできた歴史と現在のあり方、すべてに関係のある重層的なものだからです。
 またこれらの問題の多くは、ストリップというジャンル(もしくは裸になること)に特有のものではなく、濃淡はあれ私たちの社会がさまざまな場面で共有しているものです。
(『イルミナ』ではこれらを少しずつ解きほぐしていきたいと思っていますが、まだまだ途上です。また、いま現場に搾取があるのならそれは具体的に解決されていくべきだと思います。)

 当時『女の子のためのストリップ劇場入門』やストリップを批判していた人たちに直接届けることはもう叶わないでしょうが、ストリップを愛する、あるいは少しでも関心をもっている方に、清水さんと宇佐美さんお二人の文章をぜひ読んでいただきたいです。きっとなにか考える手がかりになるのではないかと思います。

 

 ちなみに私自身の『女の子のためのストリップ劇場入門』感想文は↓です。

usagisannn.hateblo.jp

 二つの寄稿に加え、創刊号には編集部あいださんによる「菜央こりん同人誌レビュー」も掲載しています。いまは手に入らない本もあるので持っている方はにまにましてください。劇場ごとに異なるストリップの魅力を発表しつづけてきた菜央こりんさんに改めてエールを!

 

インタビュー メイキング・オブ・ノーナレ「裸に泣く」

 巻頭特集(?)のふたつめは、2018年10月にNHK総合で放送されたドキュメンタリー番組「ノーナレ 裸に泣く」のディレクターさんへのインタビュー。ずっとやりたかった企画です。

 まだ番組を見ていない方はどうぞ(110円!)↓

www.nhk-ondemand.jp


 ストリップがメディアに登場することに対して、お客さんたちからはしばしば、期待と同時にある種の警戒の声も聞かれます。それは、ストリップに対する偏見に基づいたものがつくられ世に出ることでさらに偏見が強まってしまうことへの危惧なのかなと思います。(実際、ストリップを描いた作品等にはそういうものも少なくないし、私も自分のつくるものがどう受け取られるかドキドキしています。)
 この「裸に泣く」はありがちな偏見や固定観念から離れてストリップに向き合い、一方で番組としての伝えたいことや作り手の意図もしっかり見える、絶妙なバランスのドキュメンタリーに仕上がっていたと感じます。

 思えばテレビと同人誌はほとんど対極にあるようなメディアです。同人誌は一人でもつくれるし何をどれだけ書いてもいいし、5冊しか出さなくてもいい。テレビは関わる人数が多く、尺やスケジュールの制約もはるかに多く、でもその分影響力は絶大です。
 今回お話をうかがい、ディレクターさんの視野とリサーチはもちろん、撮影&編集にかかわるチームのみなさんがそれぞれの角度からストリップの魅力を感じ、それをかたちにしようと取り組んでくださったことがとくに印象的でした。
 たくさんの取材のなかから実際に番組に使われるシーンはほんの一握りで、このインタビューでは「泣く泣くカットしたシーン」もいくつか語られています。ひょっとしたらそれを読むと少し番組の印象が変わるかもしれません(いい意味で!)。いいエピソードばかりで惜しくもなりますが、そういうものを削ぎ落としていくのがテレビ番組制作で、また直接は見えない蓄積があってこそ番組が成り立つのだろうとも思います。

 こういう方がストリップに出会って魅力を感じてくれて、さらに番組をつくってくれたことを、改めてうれしく感じられるインタビューでした。

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usagisannn.hateblo.jp

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