無題

 6年前に書いたエモいお話供養。途中で始まって途中で終わるという課題で、続きを書きたいような書きたくないような。

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 なんとなく距離の近い感じ。特別に美人というわけじゃない。

 同じクラス、髪はやわらかくて目は細い、いつもはコンタクトだけどたまにメガネの、薄い色のシャツを着た、やさしそうだけどなんだか冴えない、ひょろっとした人。今度はその人を選んだの。
 3限、大教室での政治の授業。隣が空いているのを確認したら、笑顔で話しかけて、そこに座ってもいいかとたずねる。荷物をどけてくれたら、次の週からもその人のとなりに。「ねえいつもドイツ語のノート取ってるよね、貸してもらえないかな。……ありがとう、お礼に来週お昼ご飯おごるから」
 「女の子の友達と話すよりも**の方が話しやすい。女の子同士の会話っていつも自分を演じているみたいでしょ。いやだってわけじゃないんだけど、ちょっと疲れちゃって」
 話すときには机に手をべったりつけて、首をかしげてその人の方を見る。荷物を置くときに何気なく肩に触れる。ブラウニーを焼いたからと小さな袋に入れて持ってくる。紙パックの紅茶の新しい味を一口ねだる。来る時すりむいて傷ができちゃったと、目の前で長めのスカートをめくる。
 突然電話で呼び出して、どうしても話がしたかったなんて言って、その人の前で泣く。「私にだってつらいときはあるけど、こんなこと誰にも言えなくて」。「彼氏はいるよ」、でも遠距離だからめったに会えない。会いたいときに会うことができない。だから寂しいときもある。それから力なくテーブルの上に手を差し出す。もちろんいちばん握りやすい位置に。
 翌日のドイツ語の授業ではちょっと恥ずかしそうに、でも笑顔で、おはようとだけあいさつをして、ちがう友達の隣に座る。

 いつものように、学校じゃ言えないからと彼女は駅からすぐの喫茶店まで私を呼び出した。私の顔をまっすぐ見上げながら、その人から告白されましたとただそれだけのことを一大事みたいに、涙をいっぱいにためて。
 「私はそんなつもりじゃなかった。友達としか思ってなかったのに」
 ああこの子は、

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