私たちのアツいストリップ活動! C96番外編 11日間皆勤記

*ストリップの興行は基本的に10日間の刻みで行われる。
(各月1~10日、11~20日、21~30または31日)この刻みを「週」と呼ぶ。
*一つの「週」のあいだ毎日劇場に行くことを「皆勤」と呼ぶ。

   同人誌『私たちのアツいストリップ活動! 踊り子とリボン編』のインタビューをしたのは昨年の11月だった。そこから約半年ぶりにMIKAさんがストリップ劇場に出演する。
 MIKAさんは今年の5月で踊り子9周年を迎えた。ストリップをきっかけにエアリアルに出会い、現在はインストラクターを務め大会にも出場しているMIKAさんは、インタビューで、ストリップ劇場は「他にない、特別な場所」だと、そして「他の場所も知ったからこそ、一週にかける思いが強くなった」と語ってくれた。この11日間、彼女はどんなステージを見せ、どんな景色を見るのだろうか。この機会に初めての皆勤をしようと決めた。

 初日、有給を取って正午の開演前から横浜ロック座にいた。トリをつとめるMIKAさんの1回目の演目は、これまで別の劇場でも出していた「華ひらり」だった。舞台に登場した瞬間から、久しぶりに劇場で踊る高揚感と喜びが伝わってくるようだった。
 周年作としてこの週の2回目と4回目に出していたのが「未来」という演目だった。水色のロングドレスで登場する1曲目、衣装を替えてアップテンポで踊る2曲目。やがて天井から降りてくるリングをMIKAさんはやさしく手に取り、そこに乗る――この演目を11日間観ることになった。

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 MIKAさんは新作を出すとき、スタジオ練習のあと劇場に前乗りして練習しているという。そのためか初日から新作の完成度は高かった。何度も観るうちに演目のつながりや曲、振りを覚えてきて、それでも、というよりそれだからこそ細部が際立ち、毎回新鮮に感動した。魔法のように見える空中技が魔法でないことは、徐々に増えていく足のあざが物語っていた。
 ステージは生ものでアクシデントも含めて面白いというけれど、技術的なことのわからない私から見ればMIKAさんのステージは毎回完璧で、観る私の気持ちのぶれの方がずっと大きかったように思う。ただ、ある日、特別に感動した回があった。それを伝えるとMIKAさんは「実はいまが今週で一番よくできたの! お客さんたちがすごく温かく観てくれてたから」と話してくれた。

 横浜ロック座の通常料金は5000円。早朝や最終回、学生やシルバーなどの割引料金がある。私は女性割引を使えて3000円で、11日間入場すると3万3000円、ここにポラロイド撮影代やチップが加わる。皆勤しても安いとは言えないがたまになら無理ではない金額で、むしろ毎日劇場に足を運ぶことのほうが大変だろう(同人誌でインタビューさせてもらったお客さん・新井さん(仮)は「皆勤は諸刃の剣」と言っていた)。
 毎日通えばほかの踊り子さんのステージも必然的に毎日観ることになり、親近感が湧いてくる。MIKAさんとの共演をとても喜んでいた秋月穂乃果さんは私の大好きな演目(魔女の宅○便がモチーフ)を出していた。ラベンダー色の衣装が似合う香坂ゆかりさんは来月の広島で引退されるそうで、私が観たのはこの週が最後になってしまった。早瀬ありすさんのセーラー戦士の演目はステップがかわいくて毎回楽しみにしていた。スタイル抜群の豊田愛菜さんが少し早い夏の演目を出し始めて一気に好きになってしまい、ポラロイド写真を撮りに行くと「ビーチバレー上手ですね」とコメントしてくれて照れくさかった。演目の中に客席とビーチバレーをするパートがあったのだ。
 そしていままで気づかなかったお客さんたちの姿も見えてくる。40席ほど、ほぼ最前列と2列目しかない小さな劇場に、あるときは十数人がちらほらと、あるときは立ち見までぎっしりお客さんが入っていた。ここに来た理由や背景はそれぞれで、毎日のように見かけるお客さんもいれば、この週を目掛けて遠征してきた人もいる。遠くから来て明日は違う劇場に行くのだと話してくれた人もいる。一度来てよかったからと同じ週の間にもう一度来た人、SNSで噂を聞いて来た人、「同人誌を作った人ですか」と本の感想を私に伝えてくれた人もいる。新井さん(仮)はガチガチに緊張しながらリボンを投げていた。私と同じく皆勤していたお客さんはもう一人いて、楽日の最終回には二人でMIKAさんから「皆勤賞」をもらった。手書きの賞状には「あなたは毎日MIKAを笑顔にしました」と書かれていた。
 普段、どの劇場へ行っても、常連さんはよく席を譲ってくれる。ありがたく座らせてもらいながら、自分もいい席で見たくないのだろうかと不思議に思っていた。毎日劇場に行ってみてわかったような気がする。自分の好きな人、自分の好きなこの世界を、自分だけでなく他の人にも観てほしい。このよさを自分以外の人にも知ってほしい。そしてもしその人がその演目を観ることが一度しかないなら、あるいはその人が劇場に来ることが一度しかないなら、その一度の体験がよりよいものであってほしい。盆回りに座るお客さんの、鼻がツーンとしているであろう表情、眼鏡を外して目をぬぐう姿が見えたとき、言葉を交わさずとも共感できるような気がした。そういうときはたいてい私もぼろぼろ泣いていた。
 11日間は短いようで長い。劇場の外では不安なことや悲しいこともあった。7日目の朝に足を捻挫し、一日増すばかりの痛みに翌朝病院に行って足首を固定してもらった。もう今日はいいかと一瞬頭をよぎったが、8日目も劇場へ行った。楽日の翌朝には出張で仙台にいる必要があり、楽日の途中で移動して宿泊するつもりだったのが、どうしても最後までいたくなってホテルはキャンセルし翌日始発の新幹線に乗ることにした。……ということは何も言わなかったけれど、MIKAさんはいつも穏やかに迎えてくれ、「無理しないでね」と気遣ってくれた。

 「未来」のラスト、いったん地上に降りたMIKAさんはゆっくりと場内を見渡し、もう一度空中に舞い上がって、高速で回転する。リングから愛が降りそそぐようだった。その愛は、これまで傷ついたことのあるすべての人に、そしていま傷ついているすべての人に、やわらかく届けられる。誰かに伝えられなかった思いのある人に、もう会えない大切な人がいる人に、誰にも愛されたことがないと感じる人に。この場に来る日を心待ちにしていた人にも、たまたまここに居合わせた人にも、そして、ここにいない人にさえも。
 どうしてこんなに毎日、毎回、枯れることなく愛が湧き出てくるのだろうか。どうしてこの人はこんなにまっすぐ気持ちを手渡してくれるのだろうか。MIKAさんに訊けばきっと「みなさんが観ていてくれるから」と答えるだろう。観る人に届くと信じているからこそ、ためらいなく気持ちを手渡せるのだろうか。そうだとしたら、観ている私たちはただ愛をもらっているだけではない。きっとそれを受け取ってくれるはずだと信頼されてもいる。

 11日間、44回。いつ行っても観ることができ、一度も同じステージはない。この美しい芸能を愛しこの小さな劇場に居合わせた人たちと共有できた空気を忘れないだろう。MIKAさんの願いを受けて私も願いたい。傷ついた人がもう一度歩き出せるように。誰かが迷っているときにはそっと背中を押せるように。


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このテキストは同人誌『私たちのアツいストリップ活動! 踊り子とリボン編』の後日談です。
踊り子MIKAさんとお客さん(リボンさんに)それぞれインタビューした本。漫画は『女の子のためのストリップ劇場入門』の菜央こりんさんです!
booth.pm