イルミナ創刊号編集後記③―既に差別のあるこの社会で

 ストリップと社会と私を考えるZINE『イルミナ』創刊号の各コンテンツへの個人的な感想、ひとまず最後です。これまでの記事は以下の2つです。

usagisannn.hateblo.jp

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 創刊号後半は編集部のあいださんと私(うさぎ)が自前で書いたものが続きます。文字も小さく内容も重いしで飛ばしている方もいるかもしれません……そんな方へもこのブログ記事が読み進めるためのガイドになればと思います。

 普段ストリップのことを話すとき、インターネットでも口頭でもできるだけ語らないようにしていることが私にはあります。そのうちの一つが、この社会にあるストリップへの偏見であり、ストリップに限らない風俗業(そして広い意味での「夜の街」)への差別です。

 語らないのは、語ることによってむしろそれらの存在を認めてしまうというか、助長することになるのではないかと思っているからです。が、とくにこのコロナ禍のなかで噴出した数々の問題に、触れないでいるのも不誠実と思い、同人誌という媒体で書き残し提示することにしました。

公正でない社会の公正でない犯罪―映画『ハスラーズ』(うさぎ)

 この映画を初めて観たとき、キラキラしたいくつものシーンに心動かされ、シスターフッドに励まされる一方で、どんよりした気持ちにもなりました。それはたとえば私たちは通常自ら選択して物を買ったり契約を結んだり労働したりしているけれども、そのとき公正と思われるルールや、ルールを生み出しているこの社会のほうがすでに公正ではないのだとしたら? そうだとしたら、不正にあらがうことはルールを破ることでしかありえないのではないか? という気持ちだったと思います。

 映画では、リーマンショックという社会全般の危機によって、平時からあった搾取や差別がよりあからさまになる状況が描かれています。公開時からまもなく私たちの社会にも新型コロナウイルスという危機がおとずれ、皮肉にも、このことをリアリティをもって経験できるようになってしまいました。

 そんななかでこの映画のことをどう考えたものか、正直なところ私にはまだよくわかっていません。このコーナーは、2度目に映画を観て気になったシーンを集め、あいださんによる次の記事はもちろん、創刊号全体にも響くようにと思って書きました。

※『ハスラーズ』は現在Blu-rayやDVDが発売されているほか、各種配信サービスので観ることができます。

hustlers-movie.jp

劇場は今―コロナ禍で浮き上がる性風俗差別(あいだ)

 4月、緊急事態宣言とともに各地のストリップ劇場が一斉に休館しました。宣言の解除とともに営業は再開され、感染対策をしながら続けられていますが、さまざまな面で以前と同様とはいえない状況です。

 このブログを書いている11/25にも、再度の感染拡大を受けて東京都では飲食店への時短営業要請が発表されました(大阪でも24日に一部の地域に向け出されています)。劇場の営業に変化はあるのか、踊り子の仕事はどうなるのか、もしも感染者が出たら……。ストリップ客のなかにはさまざまな事情で「今は劇場へ行けない」という方も「今だからこそ行く」という方もいますが、先の見えない状況に対する不安や、なんとかして劇場・踊り子を支えたいという気持ちは同じだと思います。

 コロナ禍という危機に際して売上が大きく減少し、このままでは営業を続けられないかもしれないというお店や会社に対して、「持続化給付金」という事業者向けの制度が国により用意されています。しかし、この持続化給付金から、ストリップ劇場を含む性風俗業の事業者は対象外とされています。記事のなかでは、この給付金をめぐって浮かび上がる、この社会にある性風俗業への差別について書かれています。

 ここで紹介している「セックスワークにも給付金を」訴訟のクラウドファンディングは790人のサポーターを得て目標額を達成しています。訴訟はこれからです。

www.call4.jp

消えた劇場 ②D‌X歌舞伎町(新宿)(うさぎ)

 ストリップ劇場は現在ある劇場のみが営業を許され、新設することはできないと言われています。劇場の閉館は踊り子にとってもスタッフにとっても客にとっても大きな痛みをともなう出来事です。

 2019年のDX歌舞伎町の閉館は、私にとって初めての、自分が愛した劇場がなくなってしまうという経験でした。ここでは、デラカブという劇場について、と見せかけて真白希実さんという踊り子さんについて……デラカブで踊る真白さんについて書きました。

誰が呼んだか「ロック座の至宝」、舞台上にいる真白さんはいつも観る人の視線を文字通り一身に集め、それを照らし返すように強い光を放つ。さらにD‌X歌舞伎町で踊る彼女は、ほかのどの劇場で観るよりもダイナミックで力強く見えた。この劇場で最後に踊るのが彼女であることが、奇跡のようにも当然のようにも感じられた。

 真白さんのステージには、『ハスラーズ』の序盤のラモーナのポールダンスのシーンと重なるような、視線を集め場を支配する圧倒的な力があります。一つの劇場の閉館に際して彼女が見せてくれたのは、ストリップという芸能が確かにここにあること、そして未来へと続いていくことでした。

 ちなみに「消えた劇場①」はイルミナ準備号に掲載されており、横浜の黄金劇場を取り上げています。準備号は現在DL版のみ用意しています。

shiroibara.booth.pm

変わる歌舞伎町 ロータリーの閉店(うさぎ)

 歌舞伎町、デラカブから徒歩すぐの風林会館にあった「サントリーラウンジ ロータリー」の閉店について書きました。金曜にヌードショーがありストリップとも縁の深いお店です。

 ロータリーについては充実したWEB記事やドキュメンタリー番組がいくつもあります。たとえば以下。

news.yahoo.co.jp

www.nhk.jp

えっ、少年マガジンでストリップ?―少女マンガの巨匠の真摯な奇作 里中満智子『さすらい麦子』(あいだ)

 1970年代の『少年マガジン』には、『釣りキチ三平』(矢口高雄)や『三つ目がとおる』(手塚治虫)と並んでストリップ漫画が連載されていた! しかも作者は里中満智子

主人公はアホ毛とハート形ハゲを頭に宿し、モンペを履きこなす女子中学生・麦子。踊り子の母に連れ添い、街から街へ旅をする。彼女は母の生業であるストリップという仕事を心から尊敬しており、行く先々でそのすばらしさを人々に説き、なんならたまには自分も脱ぐのである。

 ストリップファンにして少女漫画愛好家(?)のあいださんにより、この漫画がストリップという題材にどのように向き合っているかが語られます。「主体的な性風俗従事者の女性V‌S性嫌悪の人権派女性」という、時代の(しかし現在でもしばしば見られる)限界についても言及されています。

※『さすらい麦子』は各種電子書籍サイトで配信中です。私はKindle Unlimitedで読みました。 

さすらい麦子 1巻

さすらい麦子 1巻